自衛隊のノウハウをフル活用
業界をより良い方向へ導く施策とは?

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自衛隊のノウハウをフル活用
業界をより良い方向へ導く施策とは?

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by builders_user

株式会社富建

※株式会社LTU(ライフ・チーム・ユナイテッド)へと19年10月に社名変更予定

<代表取締役社長 原田 岳(はらだ がく)氏 プロフィール>
1979年大阪市生まれ。2002年、防衛大学校卒業後、海上自衛隊に入隊。海上自衛官として勤務する途中、アメリカ「Naval Postgraduate School」でMBA(経営学修士)を取得。2011年に海上自衛官を退官し、同年、株式会社富建に入社。専務取締役、代表取締役専務を経て2018年10月代表取締役に就任。同社のイムズ(基本的精神)である「愛と真実」を心のよりどころにしながら、「住環境の向上と創造に貢献する」という企業の使命感を達成するために日々努力を続けている。

<近江 健祐(おうみ けんすけ)氏 プロフィール>
1976年西宮市生まれ。2002年、甲南大学校卒業後、海上自衛隊に入隊。海上自衛官として防衛装備庁の新設や作戦計画の立案に携わる。2019年に海上自衛官を退官し、同年、株式会社富建に入社。新会社として設立したstandardforce株式会社の営業部長に就任。入社後、自社システムを一から見直し、工務店管理システムや営業支援システムとAPI連接可能な基幹システムの開発に尽力している。

株式会社富建は、長崎県を中心に地域の建設会社や工務店に住宅商材を販売するほか、リフォーム事業にも携わる建設会社です。原田氏が入社して以来、同社はITシステムの開発にも取り組んできました。事業内容が多角化し、単なる建設会社ではなくなったこともあって今年10月には社名を「LTU(ライフチームユナイテッド)」に変更する予定となっています。同社がシステム開発に取り組みはじめた理由は何か、またそのシステムは建設業界にどんな変革をもたらすのか。同社の代表である原田氏とその右腕的な存在である近江氏に話をお伺いしました。

自衛隊所属時に実感した日米IT格差

原田さん:
創業者の富永栄市が長崎県大村市鈴田で瓦や石灰などの販売をはじめたのが当社のはじまりです。1909(明治43)年のことですから、今年で創業109年になります。

その後、1949年に合資会社 富永建材商店を設立すると同時に富永秀男が二代目社長に就任し、会社を引き継ぎます。そして、1976年に社名が現在の富建となり、私が六代目の社長に就任したのは2018年10月のことです。さらに、この10月には株式会社LTU(ライフ・チーム・ユナイテッド)へと社名を変更します。

木材・建材の流通事業が当社の大きな柱になりますが、今後はこの事業に加えて、業務効率化を実現するシステムを全国の建材販売・工務店などに販売・サポートする「プラットフォーム運営事業」、職人育成プログラムを提供する「教育事業」、科学的な教育訓練によって短期間で技術者を育成する「エンジニアリング事業」などの展開を計画しています。株式会社LTUへの社名変更は、こうした事業の多角化に伴うものです。

私が富建へ入社したのは2011年です。業務の改善点を確認する必要もあり、資材を運ぶトラック配送やプレカット工場での木材加工、資材の仕入れなどなど数多くの現場業務も経験してきました。

また、少し話が逸れますが、ふつうの建設会社とは違う当社の特徴として、選りすぐりの優秀な元自衛官が社員として働いています。経営幹部には防衛大学卒の元自衛官がおり、施工部隊の部長、長崎支店の営業も元自衛官です。なぜ元自衛官が多いかというと私自身が自衛隊の出身だからです。

近江さん:
私も元自衛官です(笑)。富建に入社した後、挨拶も兼ねて販売店や工務店に伺いましたが、そのたびに言われたのが「何故このような旧態依然でIT化も遅れた業界に入ってきたのか?」ということです。
様々な理由で厳しい業界であるのは知っていましたが、その上で自衛隊からという特殊な転職を決めたのは、IT化が遅れた業界にこそ成長性を感じ、原田が考えていたビジネスプランが「業界構造を変革できる」と確信できるほど魅力的だったことにあります。自衛隊で培った先を見越して作戦を立てていく企画力を活かし、自身も業界の変革に貢献したいという気持ちになりました。

原田さん:
私は、防衛大学校を卒業して海上自衛官になり、ヘリコプターや航空機の整備の指揮をとったり予算配分を考えたりするような職種の幹部などさまざまな職種を経験しました。

任官中は海外勤務を含めて転勤を数多く経験しましたが、数多い自衛官の中でも特徴的なのはアメリカのNaval Postgraduate School※でMBAを学んだことかもしれません。通常のMBAは2年ほど時間をかけて学ぶと思いますが、このアメリカ海軍の大学は1年半という期間で様々なことを学ぶ必要がありました。非常にハードでしたが、その時の経験が今の経営に大変役立っていると思います。※Naval Postgraduate School(NPS/海軍大学院)=カリフォルニア州モントレーにあるアメリカ海軍が運営する大学院

アメリカで学んだ経験からすると、ITと経営を切り離して考えることはできません。私が学んだのは10年以上前にもなりますが、日本企業は当時のアメリカのITレベルにも追いついていないと思いますし、建設業界はさらに遅れていると感じます。

当社も以前はITをほとんど活用できないアナログ企業でした。発注書などの書類にはカーボン紙を使い、見積作成から商品出荷に至るまで最多で6回も同じ品番を手書きで記入するといった状態でした。当然ながらMicrosoftのワードやエクセルで十分に対応できる作業です。

また、会計ソフトウェアを多少カスタマイズして使っていましたが、それにしても導入費とカスタマイズ費で3,000万円ほどの大きなコストがかかり、その後の保守費用として毎月60万円を支払っていました。いま考えると本当に恐ろしいですね。

そして、何よりも厳しかったのが在庫管理です。その時の大変さを表すような仕入れ担当との当時の会話は今でもはっきりと覚えています。

「石膏ボードの在庫数はどれくらいですか?」
「実は、倉庫にある数とシステム上の数値が合わないんです。」
「どのぐらい合わないんですか?」
「(倉庫に在庫はあるのに)システム上の石膏ボード枚数がマイナス6万枚になっています。。。」

と、こんな感じです(笑)。

10年以上前のアメリカはどうだったかというと、ごく普通の物流企業さえもがRFID※で建材をスキャンし、在庫管理を行なっていました。

※RFID(Radio Frequency Identifier)=電波を用いてRFタグのデータを読み書きするシステム

この日米間のギャップをどう埋めていくのか?それこそが日本で事業行う上での大きな課題だと感じていました。

当初、ギャップを埋める方法としてアメリカで使われていたような最新のシステムさえ導入すれば十分だろうと考えていました。ところが、日本のソフトウェア販売会社に話をしても、ほとんど話が通じない。「そんなものは無い」といった感じです。仮に、近しいシステムを自ら見つけても、UI(ユーザー・インターフェース)のデザインが非常に悪く、使用に耐えない印象を受けました。

そこで、別の結論に至ります。「ないなら自社でつくってしまおう」と。

自社でのシステム開発は試行錯誤の連続

原田さん:
自社で構築するシステムの前提としたのが、インタネット上にシステムを置く「クラウド」であることと「各端末のOS(オペレーティングシステム)に依存しない」という二点です。実をいうと、この考え方は私たちが元自衛官であることにも関わりがあります。それは「抗堪性(こうたんせい)※」という軍事用語に基づく考え方です。※抗堪性(こうたんせい)=航空基地やレーダーサイトといった軍事施設が敵の攻撃を受けて機能を維持できる能力

たとえば、物流の拠点は1か所にまとめたほうが効率は良くなります。しかし、仮に該当拠点が大地震などに被災した場合、事業はたいへん危険な状態に置かれます。このようなリスクを避けるために「クラウド」である事にこだわりました。IDとパスワードさえ覚えておけば、世界中どこからでも、新品のパソコンであってもブラウザさえあれば、システムを動かすことができます。

また、使い勝手が悪ければ、それ以外がどれだけ良くてもユーザーは使用しないことも経験上よく分かっていたため、自社システムはUI(ユーザー・インターフェース)を特に重視して開発を進めています。

それなりのかたちに今でこそなりはしましたが、そこに至る経緯は決して順調ではなく、試行錯誤の日々が続きました。

たとえば、当初手探りで「見積り」から「発注」処理を行えるシステムをつくってみた時の話ですが、時間が経っても社内スタッフの使用率はまったく向上しません。そこで、実際に使用する社員の意見を取り入れながら、随時プログラムを組んでいく手法に変更します。その方法でそれなりの成果がではじめた矢先、今度は利用率が高くなりすぎて社内サーバがパンクする事態になり、、、と、そんな感じです。

しかし、そのように我々自身が実務を通じて開発を進めてきたため、本当にユーザーが欲しているソフトウェアをつくれることができたのだと思います。

「見積り」や「発注」処理機能に加えて、「在庫の入出荷管理」や「施主に関する情報管理」などユーザーが必要とする機能をひとつひとつ追加していますので、理想としている完成形に近づけば近づくほど便利なシステムを提供できる。そう、今は考えています。

日米の生産性の違いは、効率の差ではない

原田さん:
日本とアメリカではITの活用に隔たりがありますが、本質的なところでも大きな差があります。それは、【生産性】という言葉に対する考え方の違いです。

日本の生産性に対する考え方は「ユーザーへの価格は据え置きながら、徹底的に業務を効率化する」といったものです。ユーザー満足度を高めるために必要以上にサービスの価格を下げるケースが多いように感じます。

一方のアメリカは「ユーザーが満足する適切な価格設定」をしているのではないでしょうか。必要以上に安い値付けはせず、ユーザーが納得する価格でサービスを提供している企業が多いと思います。こういった価格設定も含めて「生産性」と考えるべきです。

この違いが生まれた背景には2つの要因があると思います。一つ目は、「よい品をより安く」というビジネスモデルやコンセプトが成功事例として賞賛され続けてきたというもの。もう一つは、日本でよく知られた「お客様は神様です」という言葉の誤った解釈によるものです。日本の場合、「ユーザー・ファースト」ではなく「ユーザー・オンリー」という意味合いで考えられており、会社やそこで働く従業員の幸せがあまり含まれていません。結果的に、ユーザーのために自身の身を削るだけになってしまいます。

正しくは「よい品を適正価格で」だと思います。日本の生産性を上げるには、そのような意識を持った経営者が増える必要があるのではないでしょうか。

それ以外にも、WEB上の一括相見積り禁止や、不当な値下げ要求の禁止といった政策など不要な値下げを抑制する制度があってもよいと思います。これらを整備するだけでも日本の生産性は大きく向上するはずです。

今後の展開について

原田さん:
当社は5年かけてシステムを開発し、大幅な業務効率化を実現しました。今後はこのノウハウを活かし、全国の建材販売会社や工務店にこの同様のシステムを提供していくことも計画しています。当然ながら事業の多角化により収益を上げる意図もありますが、それ以上に日米間のIT格差を解消し、建設業界全体の業務効率化に貢献したいと考えています。

IT化による業務効率化といった話になると、IT技術そのものの仕組みやクオリティにばかり目が向きがちですが、業務効率化を実現するためのベースとなるのは会社そのものの仕組みです。

ITを導入したとしても、そこに手をつけないと業務効率化は実現できません。そのため、当社では社員の教育システム構築などにも積極的に取り組んでいます。具体例でいうと、当社の営業スタッフは年間100時間におよぶ技術研修を受講するなどです。

近江さん:
私も社内教育を受けつつ、システム開発に関わるノウハウや前提となる業界の知識など、足りないところは独力で学びながら業務を進めています。

当社の自社開発したシステムは、同業他社からみると優れているとの評価を受けていますが、重複した入力作業があることや蓄積データを活用する仕組みが連接されていないなど改善すべき問題が多数あると認識しています。そのため、現在開発中のシステムは、既存システムを一から見直していて、新規機能などの実行性をソフトウェアベンダーのスタッフと調整しつつ開発しているところです。

富建という会社について私がもっとも魅力的に感じているのは、他社からは優れていると評価されている既存システムですら切り捨てて、一から新しい取り組みをそれぞれの担当者が一任されて実行できることです。そして、その意欲をもった人間が多数いるところにも魅力に感じています。

建設業界には、業界全体で解決しなければならない大きな課題があり、そのターニングポイントにあると考えています。当社基幹システムによって同業他社や工務店と連接してデータ共有化を構築可能になれば、建設業界に変革をもたらせると実感しており、その仕組みづくりに関われることは本当に幸せなことだと思っています。

原田さん:
自社の取組みに加えて、今後は建材の販売店とのネットワークを積極的に築いていきたいと考えています。今までも組織や団体はあったものの、ITを通じたネットワークの構築には踏み込めていなかったと思います。それであれば、富建がやってみようということです。業界全体をより良くしたいという思いは誰もが持っているはずです。だからこそ、互いに連携を深めながら共存共栄を目指すのが大切だと考えているのです。

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この記事はBuilders Tech編集部により作成されました。