抵抗勢力も強かったIT導入
その流れを変えたきっかけとは?

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抵抗勢力も強かったIT導入
その流れを変えたきっかけとは?

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by builders_user

露木建設株式会社
専務取締役
露木 直巳 氏

<プロフィール>
1953年神奈川県生まれ。大学・大学院で建築設計を専攻。卒業後、東京の設計事務所に勤務後、アメリカ東海岸フィラデルフィアのペンシルバニア大学の大学院で都市デザインを専攻。外国人としての労働許可を得て、ボストンの設計事務所に勤務。6年間の就業経験とアメリカ合衆国の建築士ライセンスを取得して1990年に帰国。竹中工務店で国内の設計施工物件に従事したあと、丹下健三設計事務所で主に東南アジアの物件の設計に携わる。建築設計の個人事務所を開業したあと、2012年には実兄が社長を務める露木建設株式会社に移り、現在は専務職に。一級建築士、CASBEE評価員、東京建築士会会員、アメリカ建築家協会会員。

神奈川県川崎市に本社を構える露木建設株式会社は、公共工事のほか、鉄筋コンクリート造による注文住宅や賃貸併用住宅、マンション、ビル、福祉施設などさまざまな建造物の建築を行う建設会社です。IT導入が遅れていた同社ですが、建築設計の個人事務所を開いていた露木直巳氏が同社に移籍した2012年以降、ITを活用した業務効率化をコツコツと進めてきました。しかし、IT導入に難色を示す社員も多く、IT化には高いハードルが待ち構えていました。同社はこうした困難をいかに乗り越えてIT導入を実現できたのか、専務の露木氏にうかがいました。

露木氏が専務に就任するに至るまで

露木建設を創設したのは、私たち兄弟(代表取締役・露木直義、専務・露木直巳)の父、露木直です。終戦後、父は叔父が勤めていた建設会社で経理の職に就きながら建設作業について学び、1954年12月に株式会社露木工務店を立ち上げました。

 当初は土木工事が中心でしたが、やがて川崎市の公共工事を受注するようになり、会社の規模は拡大しました。本社は川崎区桜本にありましたが、業務拡大に伴い手狭になったことから高津区野川(現・宮前区野川)に移転しました。田んぼと畑に囲まれた静かな場所で、環境の良いところでした。1972年に川崎市が政令都市指定になると、行政や公共性の高い施設の建設を数多く受注して、民間の住宅事情まで手が回らないほど多忙な日々が続きました。

 私が生まれたのは、父の事業所が法人化される前年の1953年です。子どものころから大工さんと遊んだり大工道具でものを作ったりして遊ぶような環境で、建築への興味は持っていました。建築家を本格的に目指したのは、高校時代、建築家の前川國男さんがテレビ番組で建築設計について話していたのを見たのがきっかけです。画面の向こうで設計について語る前川さんの姿がとても格好よく見えたんですね。

大学、大学院で建築学、とくに設計を専攻して卒業。1978年から東京の設計事務所に3年間勤務したのち、アメリカの建築デザインにあこがれて、アメリカ東海岸フィラデルフィアのペンシルバニア大学の大学院で都市デザインを専攻しました。

同大学院を卒業後、外国人としての労働許可を得てボストンの設計事務所に勤務しました。同社のサポートを得て6年間就業し、さらにアメリカ合衆国の建築士ライセンスまで取得することができました。1990年に帰国してからは竹中工務店、丹下健三事務所に勤務して経験を重ね、2002年に独立して建築設計事務所を開業しました。諸事情があり、2012年からは兄が代表取締役を務める当社で専務の仕事をしています。

IT浸透の決め手は
業務効率化を実感させること

帰国後に会社勤めをしていた1990年頃、今後はITが必須と考え、自費でノートパソコンを購入しては知人とメールのやり取りなどをしていました。当時からパソコンは非常に効率的だと実感していたので、個人事務所を開業したときもパソコンをできる限り駆使して仕事をすると決めていました。

2012年に露木建設に戻った後、以前の会社の元同僚に会った時の話ですが、まだ日本に入ってきて間もないiPadを大多数の社員に支給したという話を彼から聞きました。さらに、そのiPadはクラウドサーバーに繋がっていて設計資料や施工事例から会社実績といったデータが保存されており、見たい資料をいつでもすぐに取り出すことができることを知ります。「これはすごい。近い将来、誰もがこのような通信端末を持ち歩く時代が来るだろう」と予感したのをよく覚えています。

 ちなみに、当時の露木建設の状況はどうだったかというと、ほとんどの社員が持っていたのは、いわゆるガラケーとよばれる携帯でした。スマートフォンで調べものをしていると「ゲームでもしているのではないか?」と疑われたことがあったほどです(笑)。

社内全体を見渡しても、総務部や営業事務担当がWindows Office系のソフトウェアを使っていたほか、設計部のプレゼン担当がCGソフトを使ってパースをつくっていた程度でした。そんなわけで、施工状況を報告する各種報告書類も当然ながら手書きが主流でした。

そこで、数年前から交流のあったリコージャパン株式会社にも協力してもらい、どうすれば露木建設でもITツールやアプリケーションなどを導入できるのかといった検討を本格的にはじめます。すると、さっそく古参の社員からは反発がでてきました。「これまでのやり方でも何の問題もない」というわけです。
これからの時代には必要不可欠と訴え、担当者にIT機器・サービスの展示会等にも参加してもらったのですが「うちのような中小企業では使いこなせない」「ITの使い方を覚えるまで仕事が滞ってしまう」「働き方改革に逆行するのでは」といった意見まででて、正直、驚きました。

それでもIT導入の流れを止めるわけにはいきません。そこで、私だけが推進するのではなく、事業別にチームを作り、「それぞれがITシステムの導入について各自が考えてみてほしい」と伝えます。すると、その中から漸く「業務効率化のためにIT導入を急いだ方がいい」といったポジティブな意見が若手社員を中心に出てくるようになりました。我が社の場合、若手といっても40代なのですが(笑)。そんな社員たちが頑張ってくれたおかげもあり、ようやく社内でIT化を推進する動きがスタートします。

まず、社内のガラケーを全てスマホにし、現場にはiPadも導入しました。そしてGoogleの「G Suite」を導入しました。当初は戸惑う社員もいましたが、導入した結果はすぐに現れました。以前はメールをチェックするためだけに、スタッフは現場から事務所に戻っていました。しかし、G Suiteを使えば、どこにいてもGmailでメールをチェックできます。これだけで帰社移動にかかる時間と費用を省くことができました。また、建設現場作業では写真撮影と報告記録作成が必須ですがスマホのカメラとアプリで作業時間の短縮と作業ミスの削減に成果を上げています。

これにより「ITツールの使い方に慣れてしまえば業務を効率化できる」という実感を皆が持つことができるようになります。このため、G Suite導入からわずか3か月でITに対する社内の見方が急変します。

一方で、ただ導入しただけでは浸透は難しいと考えていたため、導入当初に社内でITセミナーを4、5回開催したほか、今もITコンサルタントと契約し月に数回のペースでソフトウェアやアプリの使い方に関するレクチャーを行ってもらっています。

また、今は出退勤管理もスマホのアプリで行っていますね。

総合的なクオリティ向上を目標に
ITツールやソフトウェアを次々に導入

昨年、当社は創業65周年を迎えました。この機会に社内でワークショップを開催し、そこで出た意見を集約して「5カ年計画」としてまとめました。この計画は以下の5本柱で構成されています。

・Mission = 羨望のまなざしで見られる建物づくり
・Vision = 活動地域で顧客満足度No,1をめざす
・Core Value = 建物品質の差別化
・Basic Strategy = 露木建設の基本戦略
・Commitment = 露木建設の社会に対するコミットメント

これから建設業に対して雨風が吹くこともあるでしょうが、社員一丸となって困難を乗り越えていこうというキャンペーンです。この計画の中で、当社はITを活用したトータルクオリティマネジメント(総合的品質管理)を展開します。

その具体策のひとつが、見積もり作成ソフト『みつもりくん』の導入です。以前から当社は、神奈川県の入札案件をなかなか落札できない状態が続いていました。何か解決策はないかとリサーチを続けていたところ、「もっとも信頼性が高い」という評判があり、かつ積算業務が容易にできそうであった『みつもりくん』を導入することに決めました。

 神奈川県の入札物件の場合、落札した会社との差額は数百円~数万円程度です。最終的には運が左右するケースもありますが、精度を突きつめて見積もりを行わないと入札できません。ソフトウェア導入から間もないため、はっきりと目に見える成果はまだ現れていませんが、見積もり額を適正に判断できるようになったことに加え、見積作成担当者の作業量が以前に比べてかなり減りました。

理想の建設に必須のコミュニケーション
そして、その質を上げるIT技術

海外で仕事をしてきた経験からいうと、アメリカの建築家はデザインだけでなく、建設プロセスや建材などのプロダクトデザインまで考慮に入れて図面をつくりこみます。というのも、設計と施工が分離しているアメリカでは、日本のゼネコンのように詳細な施工図を描き起こすということをあまりしません。設計責任と施工責任が明確になっており、施工者は設計者の方針のもとに施工を行うという筋道がはっきりしています。一方、日本では設計者と施工者の責任の所在があいまいなまま仕事を進めることがあります。

本来は設計者も施工者も同じ思いで「品質にこだわる」のが筋ですが、設計・施工間のコミュニケーション不足もあって徹底されていないように思います。「施工がいいから設計が生きる。施工がいいのは設計がきちんとしているから」という互いの立場を尊重し合うことが大事で、そうした共通認識には適切なコミュニケーションが欠かせません。

こうした状況を踏まえ、当社の設計施工一貫部門では設計事務所や設備協力会社のスタッフが集まる会議に施工担当者もできる限り出席し、綿密にコミュニケーションを行なったうえで設計図書や指示書をまとめるように心がけています。図面を描くことで依頼主の要望を伝える設計担当と、その図面や設計者の説明から意図を汲み取って建物をつくる施工担当スタッフの意志が通じて、はじめて理想の建物が完成するからです。

IT技術を適切に用いることでステークホルダー(利害関係者)とのコミュニケーションをより良くするといったことは可能です。IT技術は、通常の会話をリアルタイムでつなぐオーソドックスな機能から、ビジュアルを通して意見交換できる技術、そしてコストダウンを実現する時間短縮技術など多岐にわたります。こうしたIT技術を駆使することで、中小規模の建設会社であっても中堅ゼネコンに引けを取らない建物づくりができると信じています。

当社は「5カ年計画」のMissionにおいて「羨望のまなざしで見つめられる建物づくり」を掲げていますが、この理念・使命は当社の「品質」にかける想いから生まれるものだと確信しています。そして、今後の目標は建設会社として100年企業の仲間入りすること。この目標を達成するまで、私は“Business must go on!”というモットーを掲げ続けます。

投稿者プロフィール

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この記事はBuilders Tech編集部により作成されました。