自社アプリのアジャイル開発により
業務効率化を徹底

自社アプリのアジャイル開発により
業務効率化を徹底

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by builders_user

積水ハウス株式会社 
IT業務部 部長 
上田 和巳 氏

<プロフィール>
兵庫県神戸市出身。横浜国立大学卒業後に神戸大学院入学。1989年積水ハウス株式会社技術研究所に配属。2000年から社内ホームページやNETオーナーズクラブ立ち上げ、IT住宅、eタウン&タウンセキュリティ企画を担当するなど、同社におけるIT活用担当を歴任。さらに、2006年から情報システム部(現IT業務部)に異動してからは、IT活用に向けた動きをさらに加速。WEBシステムの開発や邸情報プロジェクト、iPad導入プロジェクトなど、現在の同社になくてはならないシステム構築において、主導的な役割を果たしてきた。現在、IT業務部部長として、次代の住まいのプラットフォームづくりに取り組んでいる。

経済産業省と東京証券取引所が共同で選定する「攻めのIT経営銘柄2019」に選ばれた積水ハウス。ITを活用した企業価値の向上と働き方改革を強力に推し進める姿勢が高く評価されました。今回取材させていただいたのは、そんな同社のIT部門の最前線で活躍する上田様。従業員数約1万7000人の大企業において、全員が使いやすく便利に活用できるITシステムの構築や、いち早く全従業員にiPadを導入した経緯など、現在ITによる働き方改革の成功事例としてメディアでも紹介される同社の核心部分について、詳しく伺いました。

89億円という過去最大のIT投資を実施

ご存じのように、建設業界はITの活用が大変遅れている業界でした。昔から如何に人が動くか、ここに重点が置かれてきた業界ですので。当社でもこうした時代を経て、パソコンが導入され、業務効率化のためのシステムが構築されていったわけですが、それはあくまで部署ごとのシステムでした。他の部署に行くと全然違うシステムで仕事を行っていたわけです。

実は、これが新たな取り組みへの足かせとなってしまう原因だったのです。例えば、業務効率化のために、工場でやっていたことを、営業で前倒ししてやってもらおうと企画します。ところが、工場のシステムは営業には入っていないので、「わからない、できない」となってしまうわけです。いつの間にか、ビジネスの固定化につながり、新しいことができない体質になってしまっていました。

そこで、リーマンショック後の2010年あたりから始まった効率化プロジェクトが、すべての邸情報(建物・部材情報)をはじめとした情報を一元管理し、全部署・全スタッフが同じシステムからアクセスできる仕組みづくりでした。


 
 

結果から言いますと、このプロジェクトは大成功でした。過去最大の89億円というIT投資を行いましたが、プロジェクトの2年目あたりから、年間80億円のコスト削減ができるようになりました。この時の礎が、現在のスタッフたちの就業時間削減にも大きく貢献しています。

潜在的な業務の非効率性を皆が実感し、
全部署横串のプロジェクトが発足

そもそも2010年にプロジェクトが始まったきっかけは、この年が当社の50周年だったことも要因でした。記念新商品を開発することになり、そのタイミングでCADのシステムを見直し、もっと効率化を図ることになったのです。そこで、様々な部署からスタッフがプロジェクトメンバーに選ばれました。私も途中からでしたが、当時情報システム部にいたので呼ばれることになりました。これが各部門・部署を横串する部署である、現在のIT業務部につながっています。

話の中で出てきたのが、CADだけの効率化ではなく、生産まで一貫して効率化を図れるシステムづくりでした。当時の状況をお話ししますと、一部データ連携はしているものの、営業所でCADで作った図面を工場で担当者がチェック、工場のシステムに入力しなおす、という非効率な作業を行っていました。

当時から私も疑問に感じていて、「これってどうなのでしょう? もう少し改善できないだろうか…」と頭を悩ませていました。そこで、CADだけではなく、生産部門まで巻き込んだ業務効率化に向け、私が企画書を作成して大きな判断を行う経営企画部に持ち込んだわけです。すると、「ここまでやるのなら、アフター対応まで包括してできる仕組みにしてほしい」と言われたのです。当時は長期優良住宅の管理を行っているタイミングでしたから。アフターまで包括できれば便利だという話だったのです。

このようにして、各部署の役員を回り意見を聞いているうちに、どんどん企画の内容が大きくなり、様々な要素が加わっていきました。この時感じたのは、結局どの部署でも効率化などの悩みは昔から抱えていて、頭ではこんなのがあるといいなと、思っていた。でも具体的な話になると、「他の部署のやり方に合わせるのは難しい!」という話になってしまっていました。加えて、「全部署・全社的な企画はどこの部署が作るのだろうか?」という根本的な疑問もあり、総論賛成・各論反対みたいな状況が生まれ、前に進まずに終わっていたのです。

結果論ですが、それが全部署を横串にするプロジェクトチームや後のIT業務部の発足により、スムーズにできるようになったのです。部署ごとの利害関係ではなく、全体をフラットに見られる部署というのは、10年前まではありそうで、ありませんでした。

iPadに最適化したツール自社開発
200種のアプリをリリース

こうしたベース部分を固めた後に劇的に業務の効率化を進めたのが2013年から始まった、全従業員にiPadを導入する取り組みでした。当時は同業他社でも、ぼちぼちiPadを導入し始めていました。ただ当時の認識は、「便利そう、カッコいい、持っているとお客さん受けがいい…」という程度でした。

そこで、今回の導入は本気で徹底的に活用するつもりなのか、それとも時流に乗った程度のとりあえず導入するということなのか、その真意を当時の社長に確認しに行きました。

すると「使うからには本気で徹底的に活用して、結果を出すように」との号令がかかりました。以前はいろいろな部署にIT課のような部門が点在していたのですが、この当時はすでにIT業務部として統合され、全部で100名くらいのスタッフがいました。

そのスタッフ全員で、まずはiPadを使ってみることにしたのです。感想としては、意外と分からないことが多い。これをこのまま配っただけでは、絶対に使い切れずに終わってしまう。だから、起動したらすぐに仕事に役立てることができるようなアプリ・システムが必要不可欠と直感しました。

大変だったのは、システムをつくるより、スタッフが適応してくれるかどうかでした。当時の売り込みでよくあったのは、パソコン用のシステムをiPadに入れることができるというプログラムでした。「こうすれば便利ですよね?」というロジックです。

確かに便利そうに聞こえるのですが、実際に使ってみると、使いづらい…。やっぱりパソコンはパソコン、iPadはiPadで最適化されたシステムを使わないとダメなのですね。最初はよくても、使いづらいと人はだんだん離れていきます。

そこでiPad用の社内アプリの開発がスタートしました。こうした開発には、100人のスタッフが大変な苦労を強いられるかもしれませんが、1万人以上の従業員の業務が効率化できるのであれば、それはやるべきです。

2013年から社内アプリの開発が始まり、これまで200以上のアプリをリリースしました。現在、iPadは全部で2万台導入し、その使用率は100%。今では、全従業員がiPadがなくては仕事が成立しなくなっています。

 

勤退の記録や、建築関連の電子書籍、社内チャットなどの基本的なアプリに加え、例えば、打ち合わせ中のお客様に外壁材の使用イメージを伝えたいときは、「ご近所検索アプリ」を活用し実際の施工例を見に行きます。最寄りにある施工例情報にアクセスできるアプリで、外壁材など使っている建材で絞込検索ができるようになっています。

以前だと、「あの壁材の家は確かこの辺のお住まいで使用したはず…」といった具合に、営業担当の記憶が頼りだったのですが、全スタッフが確かな情報を共有できるようになりました。

またアフターフォーローの現場では、朝アプリにログインすると、その日に点検に回るお住まいが一覧で表示され、そこには図面や地図など、あらゆる必要なデータが入っている。現場でチェックしてそこに必要事項も入力して仕事は終了です。以前は一度会社に出勤して、その日に回るお住まいをチェック、全部の図面をプリントアウトして現場に持ち込み、必要事項をメモしたら、今度は会社に戻ってパソコンでデータにする…という作業を行っていました。今では直行直帰が可能になりました。

必要な図面の管理も、平面図、プラン図、電気配線図など、あらゆる図面がクリック一つで必要な情報だけが表示されるので大変見やすくなり、見間違いによるミスもなくなりました。こうした業務効率化により、1ヶ月あたりの残業時間を10~15時間削減することに成功し、休日出勤も減らすことができました。

熊本地震の翌日に震災特別アプリを全従業員に配布
自社アプリ開発はスピードが命

一元管理できるシステムとiPad導入による効果の大きさを特に実感できたのが、2016年の熊本地震の時でした。震災の翌日には震災対応用の特別アプリを配信し、被災した当社物件の情報収集・記録を行いました。当社物件すべての場所がiPad一つで確認できるので、迅速にどんどん情報が本社に集まってきます。東北地震の時はノートパソコンを現場に50台ほど送って、紙の地図で当社物件を探しながら…という対応でしたので、スピード感が格段に向上しましたね。

迅速にアプリ開発ができる背景には、社内にグループ全体で200名ほどのSEを抱え、ほぼすべてのシステム構築を内製しているからだと思います。アプリの企画を考えてから社内SEに説明をして、プロトタイプが1週間ほどで挙がってくる。そうしたらとりあえず使ってみて、現場の声をどんどん反映してアップグレードしていくんです。こうしたアジャイル開発を基本としています。スピード感が大切です。iPadはパソコンと違い難しいプログラムは使えません。だったら時間をかけずにどんどん現場の声を拾って必要なアプリを走らせた方が圧倒的に便利なんです。 パソコン用のシステムを作っていた当初から、社内のSEで内製していましたが、当時は半年から1年は開発にかかっていました。震災の時のことを考えると、そんなに時間をかけていると、完全に初動の対応は終わっていました。

企業内IT部門として現場と密着
経営者にも提案する攻めのIT活用

システム開発や問い合わせを外部に委託していると、現場とITの距離がかなり離れてしまいます。アウトソース先に企画を伝えて作ってもらって終わり。現場からの要望も届かずシステムやアプリに反映されないため、徐々に使われなくなり、結局結果が出せないんです。

他社ではこうした状況が一般的ではないでしょうか。システム開発を内製化し、現場を回ってでも利用者の生の声を聞き、常に改善のサイクルを回すことで、この距離が縮まると考えています。

また、IT業務部として積極的に経営陣にアプローチしていく、かかわっていくことも、ITのプレゼンスを上げていく意味で重要となります。例えば社長から、「なぜ着工数が減っているのに現場監督は忙しいのか。自分は今の3倍は案件を抱えながら日々仕事をしていた。おかしいだろうと」という指摘がポロっと出る。こういった指摘を放っておかずに、10年前のあらゆるデータを比較して、その原因を探るんです。データが一元化されているので、すぐに調べることができます。

実際10年昔と今を比較してみると、確かに抱えている案件が多い場合では、昔の方が今の3倍ほどになっていました。でも現在は姉歯事件以降チェックの項目や書類づくりが膨大に増え、さらに会議の時間も増えていました。こうした結果をレポートにまとめ社長に提出します。すると、こんな資料があるのかと、驚かれます。

私たちの持っているデータによって、現場監督に本来の仕事に専念してもらえるような施策を考えるという、次の経営判断につながっていくわけです。

IT業務部は仕事が増えてしんどいかもしれないけど、ITは受身ではなくて、持っているデータを積極的に出していくことで、社内におけるいろいろな事が変わっていくんだと思うようになりました。まさに攻めのIT姿勢を実感している日々です。

世帯単位での情報管理
今後は個人単位での情報管理へ

今後の展開ですが、すでに発表した「プラットフォームハウス」の構想を推し進めていきます。プラットフォームハウスとは、人生100年時代を見越して、「健康・つながり・学び」のサービスを住まいが提供していくあらたな仕組みです。第一弾のテーマは「健康」です。住まい手の住環境データとライフスタイルデータをもとに、「住まいが健康をつくり出す」という新たなサービスを提供します。

こうした新しいサービスに取り組むためには、ITのプラットフォームが変わってきます。私たちには過去の蓄積で10万件以上の顧客データがありますが、それはどれも世帯のデータです。10年経過していれば子供も増えているかもしれない、お子さんが独立しているかもしれない…など、データの内容も変わっているはずです。今後はこうした情報のアップデートと、世帯情報ではなく住まいに暮らす個人単位での情報整理・分析が必要になります。その他にも、ブロックチェーンを活用した他企業との情報連携といった、これまでに無い全く新しいビジネスモデルの構築にも、目下取り組んでいます。

投稿者プロフィール

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この記事はBuilders Tech編集部により作成されました。