全物件の“オールBIM化”を推進し
「顧客満足度の向上」と「働き方改革」を実現

全物件の“オールBIM化”を推進し
「顧客満足度の向上」と「働き方改革」を実現

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by builders_user

大和ハウス工業株式会社
技術本部 BIM推進部 部長
芳中勝清氏

<プロフィール>
大学卒業後の1984年、大和ハウス工業に入社し集合住宅部門で営業を担当。販売用の資料を自作していたところ、その技術力を認められて88年に設計部門に異動し、設計コンペに積極的に応募して多くの賞を受賞。社内に新設されたFA制度を利用して異動した集合商品開発部を経て、2018年からBIM推進部。現在は部長として活躍中。

建築業界で世界的なトレンドとして標準化が進んでいる「BIM(Building Information Modeling)」。大和ハウス工業は先駆けてBIMの研究を開始し、「顧客満足度の向上」と「働き方改革」を両立させる取り組みを行ってきました。さらに、同社は成長戦略を促進させる目的で、2020年度末までに戸建て住宅や商業施設などの全物件でBIMの導入を目指しています。BIMを導入するねらいはどこにあるのか、BIM推進部長の芳中勝清氏にうかがいました。

10兆円企業を目指し、「BIM戦略」を推進

大和ハウス工業は、2055年に10兆円企業群になることを目指しています。国内需要はおよそ5兆円と予想しており、海外需要を国内と同じくらいの規模まで拡大する必要があります。海外事業を拡大するうえで必要になるのが「BIM戦略」です。これを無視すると、どれほど拡大方針を立案しても途中で立ち行かなくなる可能性があると考えています。

当社がBIMの研究を開始したのは2006年頃となります。すでにオートデスクからCADソフトの「Revit」が発売されており、社内でこのソフトのユーザーを集めたグループが発足しました。その中で、CAD室やCG室などでITに関わっていた一部のメンバーがBIMの研究をはじめたのです。経営陣が「BIMを導入すべき」と決断したのは2016年頃です。10年にわたって研究を続けた結果、ついに技術本部が社内経営陣に対し「BIMに投資すべき」と提言するところまでこぎ着けたタイミングになります。

当社の建設事業は住宅系と建築系に大別されており、さらに前者には戸建住宅部門と集合住宅部門があります。このうち集合住宅部門の責任者がBIMに興味を持っていたことから、他部門に先駆けて2015年からBIMを導入しました。一般建築系が本格導入したのは2018年初頭で、最後に残った戸建部門は今年の秋から正式導入します。これにより、今年度中にすべての建設事業部門でBIMの正式運用がスタートすることとなりました。

2020年度内にすべての物件のBIM化を目標に

すべての建設部門でBIMを正式運用することを受けて、当社は「2020年度内に全物件のオールBIM化」という方針を打ち出しました。“オールBIM化”は、Revitに追加する当社独自のアプリケーション開発と、従来のCADと同様に使えるシステム運用の改修を両輪とするもので、この2つが揃ってはじめてオールBIM化が実現します。 オールBIM化を実現して何ができるかというと、一つは「設計データの統一」です。物づくりは各部門のやり方で進めてもらって構わないのですが、完成時のデータのプラットフォームはRevitを使うことに統一しました。

もう一つは「業務改善」です。社内には営業や設計、生産工事管理などさまざまな職務がありますが、各部署のシステムは完全にリンクしているとは言い切れないところがあります。そこで、Revitのプラットフォームで入力したデータベースを中心に事務作業を行えば、重複を排除したり単純作業を自動化させたりすることができて業務の効率化につながります。

こうしたBIM化は、国内よりも海外のほうが進んでいます。スウェーデンの企業であるBIMobject(https://www.bimobject.com/ ※日本では野原ホールディングス株式会社のグループ会社)は建築関連製品のメーカーが広告を掲載するサイトとして既にかなり活用されており、そこに商品を掲載しないと建築物に採用されるのが困難になるほどです。本来は、案件ごとに適合する建築資材や設備機器を探し出す必要がありますが、BIMobjectにはさまざまなタイプの製品が掲載されているので、ダウンロードするだけで設計プランに使えるのです。

日本はまだカタログを見せて営業展開するのが主流で、大手住宅用設備機器メーカーといえどもRevitなどに登録している商品は全体の5%程度に過ぎません。
これではダメだということで、当社は工業化住宅に使用するユニットバスやキッチンといった設備機器にオリジナル品番をつけてデータ化しています。これまで扱ってきた商品のライブラリーをすべてデータ化するのは大変な作業でしたが、すべて自社で行いました。

2020年以降は日本国内でもBIMの水平展開が進み、標準化されることが予想されます。住宅用設備などのメーカーにもBIMの重要性をご理解いただき、BIMobjectのようなデータベースに商品を掲載する戦略を採用してほしいと考えています。当社も各メーカーに対して「今こそBIM投資を行うべき」と働きかけているところです。

発足したばかりの「BIM推進部」が急拡大

当社の「BIM推進部」は2018年4月に発足しました。その1年前は準備室として「BIM推進室」がありましたが、部が発足した際に私がその部長に就任することとなりました。 推進室であった時は10人ほどの組織でしたが、推進部として正式に発足した時点で20人に増え、1年が経過した現在は約50人が所属しています。スタッフは社員だけでなく、外部の設計事務所などからも参加しています。

現在、BIM推進部は4つの方針を打ち立てています。
①「文化」を創る、②「人」を創る、③「物」を創る、④「絆」を創るというものです。このうち、②の「人」を創るという方針は当社の企業文化と合致することもあり、とくに重要視しています。推進部が行う人財教育のコンセプトは、「BIMを理解して実務に活用できる人財を育成する」というものです。

人財教育を行う「東京BIM研修センター」は1年前にオープンしました。受講生と講師用にパソコン等の機器がセッティングされており、一度に約30人がハンズオン研修を受講できます。オープン以来、フル稼動している状態が続き、これ以上は受講者を受け入れられないという理由から、今年4月に新たに「大阪BIM研修センター」がスタートしました。これにより、現在は約60人の受講者がBIM研修を受けられる設備が整っています。

また、今年度は初めて5人の新入社員をBIM推進部に受け入れています。来年度も同数の新人を採用する予定です。今年入ってきた新入社員は2年前に推進部のインターンシップを受けた学生がメインとなりますが、とても優秀な人材を確保できたと考えています。その新人社員に話を聞いてみると「これほどBIMに特化し、設備投資などを積極的に行っているのは大和ハウス工業だけ」という理由から大和ハウス工業を選んだと話をしてくれます。新卒に限らず、こういった職場環境を希望し、高いスキルを持った人材が続々と入社してきています。

一方で、BIMを推進していくうえでハードルとなるのは管理職の機能改革や育成です。管理職向けの教育も実施していますが、まず「設計責任者として行うBIMとは何か」を明確にする必要があります。管理職は図面をつくる立場ではないので、「部下がつくったBIMデータを読み取ることができずに、管理者・責任者と呼べるのか?」という視点で教育を展開したいと考えています。

BIMの導入により「顧客満足度の向上」という利益を生み出す

営業的な観点でいうと、BIMのような新しい技術を導入することで「どれだけ利益に貢献できるのか?」ということは社内で求められて当然です。この疑問に対する回答としては、「顧客満足度の向上」によって利益を生み出せると考えています。

BIMを導入した最初の1年間はとても辛いものです。慣れない仕事であり、むしろ時間のかかるところからはじまるのですが、BIM化を継続することで「働き方改革」や「生産性向上」が少しずつ前進し、やがて「実行してよかった」と感じることができるものだと思います。私が設計を担当していた当時、CADというものはなくて図面は手書きが当たり前でした。手書き、あるいはその後の2次元もそうですが、ごまかしが効くんです。平面から立体へと移行する過程は設計士の頭の中だけでリンクしているので、最終的に都合よく収まるように仕上げることができます。

一方で、細部のところでごまかしが効かないのがBIMです。事前にすべて確認できるところが強みで、この「整合性の向上」を徹底できれば顧客満足につながると確信しています。 戸建住宅のエンドユーザーと住宅会社の関係はとても近い位置にあります。このため、戸建住宅における顧客満足度は、住宅メーカーを比較するうえでとても重要な指標になっていますが、その点もBIM化を推進すれば、図面と現場で行き違いが生じるといった失敗が少なくなるので、顧客満足度を格段に向上させる可能性は十分にあると考えています。

最後に、方針④の「絆」を創るについてご紹介させてください。設計は外部組織の協力なしには成り立ちません。設計そのものもそうですが、住宅系においては社内には設備設計の専門家は少ないので、外部に協力を依頼して、やり取りを重ねながら完成品として仕上げています。 当社がBIM化を推進するのに伴い、日頃からお付き合いのある外部企業や組織にもBIM化を進めてもらわないと仕事が進まなくなってしまいます。「三次元はやりません」いう話にパートナーがなってしまうと、そこで縁が切れてしまう可能性もあります。そうした事態を避けるため、外部パートナーとの関係性も重視して、BIM化の研修や教育を外部に提供・展開しています。

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この記事はBuilders Tech編集部により作成されました。