国土交通省が推進する「i-Construction」を先駆ける山口土木
その一貫したITへの積極投資の背景と活用方法を探る

国土交通省が推進する「i-Construction」を先駆ける山口土木
その一貫したITへの積極投資の背景と活用方法を探る

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by builders_user

株式会社山口土木
取締役 統括技術部長兼総務部長
松尾 泰晴氏

ITを、時代に先駆けて取りいれ続ける山口土木。下請けを使わず川上から川下までを社員一人一人がすべて責任を持って請け負う体制が特色の企業です。監督員およびほぼ全ての現場作業員とスマホで一斉に情報共有ができるシステムをいち早く取り入れ、測量の効率化を実現するレーザースキャナー、ドローンなどの機器も次々に導入。さらには、DELLの高性能タブレット「Rugged」を用いて現場作業を省力化するなど、IT技術をフル活用した同社の進化は止まることがありません。IT活用のきっかけや背景、それによってもたらされた成果など、同社の推進役である松尾氏にお話を伺いました。

国も注目する業界のトップランナー
その理由とは

まず初めに、私が勤める山口土木という会社について簡単にご紹介したいと思います。 山口土木は1990年に土木事業者として愛知県岡崎市に創設され、以来、公共事業から民間の土木・建築に至るまで、さまざまな工事を請け負ってきました。近年では土木・建築の事業を柱としながら、飲食事業や海外事業など、積極的に多角化も進めています。
1990 年創業というのは、歴史の古い会社が多い建設業界では新興の部類に入るかと思います。役員を含めた社員の年齢も若く、その点でも高齢化が進む建設業界では異色の存在と言えるかもしれません。
そんな当社の大きな特徴と言えるのは、下請けに頼らずに現場管理から施工までの全ての工程を社内のスタッフのみで対応するという方針があることです。一般的な事業者は、社員は監督の役回りだけを演じ、他の作業は下請けに任せるといったスタイルを取るところが多いかと思いますが、当社は違います。当社の土木事業部は、監督・作業員合わせて30 名程度おりますが、誰もが施工の全行程を行えるよう、スキルの習得に日々努めています。
最初の頃は、舗装工事など下請け業者を活用して行っていた工種もありましたが、ある時、社長より「社内のみの一貫体制で行く」という方針が打ち出されました。下請け業者を使うと、そのスケジュールやタイミングなどに合わせて仕事をしなければならず、自分たちの手が空いてしまうといった効率の悪さがありました。また、自社のみで施工を行えば、自分たちの目が行き届く仕事ができるようになり、品質の担保もできます。
しかし、当初その方針を聞いた社員たちはかなり戸惑います。身につけなければならない知識やスキルが膨大になるためです。例えば、監督が測量を終えた後に、油圧ショベルを操縦したり、ダンプカーを運転したりするのですから(笑)。
しかし、こういった大変な状況だったからこそ、「IT活用」という発想が必然的に生まれてきました。カッコいい言い方をするなら「効率化」となるでしょうが、本音は「どうしたらラクができるか」という単純な動機でした。一人で何役もこなすため、当然、社員の業務負担は大きくなります。その負担を可能な限り低減し、より少ない人数で、多くの工事を無理なく推進するにはどうしたらいいのか?そんな模索の中で辿り着いた結論でした。

あれこれ考えず
とにかく皆ではじめてみること

 少しだけ私自身の紹介となりますが、私は2009年に山口土木に入社しました。若い頃から新しいことが大好きで、パソコンなどの情報機器に強い興味がありました。19歳で社会人になり、その初任給で当時はかなり高額だったNEC製のパソコンPC9801を買うほどです。その後も、iMacを購入したり、ISDN時代のインターネットをいち早くはじめたり、ホームページを個人制作したりするなど、とにかく新しい技術を試すのが好きな性格でした。
そんな流れでGoogleがSketchupをリリースした時にも、真っ先に取り入れました。当時から建設業の仕事でも使えそうだと感じていましたが、以前勤めていた会社ではそうした先進技術への理解があまり無かったため、高価なIT関連機器やソフトウェアを自腹で買っては研究する日々が続きました。
その後、今の社長に引っ張ってもらうかたちで山口土木に入社することになります。しかも、「好きなことをやっていい」という破格の条件付きでの入社でした。しかし、事はそんなに良い感じでは進みません(笑)。入社から3年間ぐらいはあまりにも仕事が忙しすぎ、「このままだと社員全員が倒れてしまう」といった危機感が生まれます。その時こそが、社内のシステムを大きく変更しなくてはいけないと強く考えたタイミングでした。

まず取り組んだのが情報伝達・コミュニケーションの方法を変えることです。例えば、雨が降りはじめ、工事ができなくなったとします。その決断が社長から現場監督、現場監督から作業員へと伝言ゲームのように電話で伝えられますが、その後に急に雨が上がると「決行」へと変更されることもしばしばです。それが、また同じような伝言ゲームで伝えられますが、伝達漏れがあったり、電話がつながらなくなったりと多くのロスが発生していました。
そのような流れを改善するため、iphoneを使い、全員一斉にメッセージを送信するシステムを採用します。今でこそチャットなどを使って一斉に情報共有をすることは当たり前ですが、当時はiphoneなどのスマホは個人での使用に限られるケースが多く、業務で活用されているケースは少なかった時代でのシステム採用でした。

必ず発生する社内の拒否反応
その対応策と心構えとは

IT関連の機器やソフトウェアなどを導入しても、上手くいく会社とそうでない会社があるように思います。私は、その差は経営層の「覚悟」が生んでいるものだと考えています。トップの覚悟や決断力がなければ、山口土木はここまで来ることはできませんでした。山口土木では、社員が何か提案を行うと、そのアラ探しではなく「面白い!やってみよう!」と常に前向きな答えが社長から返ってきます。
先ほどお話しした全社員にiphoneを持たせた件についてもそうですが、導入当初は「使い方が分からない」「前のやり方がいい」と拒否反応を起こす社員もいました。しかし、私がすべてのセットアップを行い、「こんな時はこう使う」など、ひとつひとつ必要となる機能を教えていきました。私自身が社員全員に「とにかく触れ、触れ」とはっぱをかけ、皆のITアレルギーを払拭するところからのスタートでした。
何かを新しく導入しようとすると、必ず拒否反応は起こります。福井コンピュータのCADソフトウェアを新規に採用した時もそうです。「こっちの方が絶対に効率がいい」と説明しても、使い慣れたソフトが良いといった主張をする人が必ず出てきます。
そこで実践したのは、以前から使用していたCADの強制アンインストールです。問答無用で全部消してしまいました(笑)。その後、iphone導入時以上に、新しいCADに慣れるまではとてつもなく苦労することになりますが、その状況を乗り越えられれば業務の効率は飛躍的に上がりますし、仕事の領域も大きく広がることがわかっていたため、乗り切ることができました。
みな、「暇なときにやろう」と言っても、暇になると帰ってしまうし、「時間があったらやろう」といっても、誰もやりません。だからこそ経営層が覚悟をもって、やらざるを得ない環境をつくってしまうことが大切なのだと思います。

タフな現場業務の省力化を
Dellの高性能タブレットで実現

社内のシステムを変えていくのも重要なポイントですが、それと同時に、現場で使用する端末機の性能や機能を上げていくことも重要だと考えています。今の現場ではDELLの『Rugged』(ラグド)というタブレットを採用していますが、非常に重宝しています。
測量という作業は、高い専門知識と長い実務経験を要する仕事です。少人数でその測量を含む施工業務のすべてを回すためには、現場でも使えるほど頑丈で高性能なタブレットが必要でした。以前使用していたタブレットは、その処理速度が遅く、結局は会社に戻ってからの作業となってしまうこともありました。しかし、DELLのRuggedタブレットであれば、測量で扱う大容量のデータもストレスなく扱えます。
また、公共事業では、発注元である県や市によって検査が行われるため、我々のような企業はPC等を持ち込み、データを確認してもらう必要があります。こんな時にもRuggedタブレットが有効でした。CADデータをはじめ、工事や申請に必要となる情報を端末内に入れておくことができるため、Ruggedタブレットさえあればすべての対応を処理できます。
従来の端末と比較しても、間違いなく業務効率が20~30%はアップしていると言えるでしょう。直射日光下でも画面がはっきりと見えるのもいいですし、手が濡れていたり、厚手の手袋を着用していたりしても操作できるなど、工事現場の使用に適したタブレットだと思います。

DELLのRuggedタブレットを活用する松尾氏

何を使うか?ではなく、
それを使えばどうなるのか?という思考を徹底する

現場のIT化は進んでおり、国土交通省などではAIを活用して現場の画像データを解析し、人間では見つけられないようなクラックを発見する技術を推進したりしています。
しかし、われわれのような現場がまず取り組むべきは、もっと身近な技術、例えば「OK、 Google」レベルのような、身近なITに触れるところからで良いと思うんです。Google ハングアウトでのWEB会議もそうですし、文字が入っている写真データをGoogleドキュメントで開いてテキスト抽出を行うような処理も同様です。そんな身近なところからIT化していくことも非常に重要です。
当社は規模が小さいこともあり、まだまだ手作業も多い。取引先や行政機関などからFAXが送られてくると、それを見ながらテキストを抽出しなければならないようなことも多く、そのような手間が非常にもったいないと感じます。
そのため、そんな場合はFAX等の紙ドキュメントを携帯のカメラで撮影し、クラウド上にアップロード。そして、Googleドキュメントで開けば一瞬にしてテキストデータに変換できます。そんな些細なことではありますが、「どうしたら作業時間を短縮できるか?」を懸命に考え、常に新しいIT技術への興味を持ち続けていれば、業務効率化のヒントはどこででも見つけられるはずです。
ITとかICTという話になると、その導入自体が目的になってしまい、自社が抱える様々な無駄を削減するという視点が抜け落ちてしまうことが多々あります。何を導入するか?ではなく、どのように活用するか?を徹底的に考える。それこそが本当にITを駆使するという意味だと思います。

積極的なIT投資は
業務効率化だけの目的ではない

いま、わが社が積極的に取り組んでいるのはVR(Virtual Reality)です。2015年にスタートしたため既に3年余りが経ちますが、私がVRの本格的な活用を考えた理由のひとつは、図面上では気づけなかった不備等に気付けることがわかったからです。図面上や3Dデータをパソコンの画面で見ている時には全く問題がないと判断された現場でも、3D化されたVRの現場データ内に専用のゴーグルを付けて入り、あたかも実際の現場を歩くように見ていくと、想像もしていなかったところに隙間があったり穴があったりということに気づきます。そのような情報を事前に知ることができれば、工事が始まってから「こんなところに穴がある。どうしたらいい?」といった話になることもなく、非常にスムーズに現場がまわります。
また、現場作業員やクライアントも、VRで見てもらった方が完成時のイメージが明確になりやすく、プランニング時と完成時のギャップがなくなるため、顧客満足度も高まります。 具体的な例でいうと、個人のお客様からカーポート施工のご依頼をいただいたとします。 図面や3Dデータだけ見せてもイメージが湧かないという話になってしまうこともありますが、VRで完成イメージを見ていただくと一発でOKが出たりしますし、完成後に「思っていたのと違った」という話にもなりにくくなるのです。

VRを検討されている会社の参考になればと思いますが、山口土木では3Dデータ作成のためにドローンとレーザースキャナーを組み合わせて使っています。ドローンは上からの映像は得意ですが、建物の中や木の下などの箇所は撮影できません。そのため、地上ではレーザースキャナーを使ってデータを集約し、ドローンが上空から撮影したデータと統合させます。このようにして作成された3Dデータを用い、そこにVRが加わると、リアルに近い空間の中を自由に歩いていける感じになります。
山口土木で採用しているレーザースキャナーは1,000万円ほどと非常に高価ではありますが、当社はいち早く取り入れることを決定しました。変化が非常に早い今の時代、誰かが既にやっていることをやっても、リーダーにもなれないどころか、あっという間に置いていかれます。以前、私自身が身をもってそのような経験をしました。だからこそ、同じ轍を踏まぬよう、周りからすると無謀に思えるような投資でも積極的に行っていくのです。

点と点を結ぶ発想力と
最後まで諦めない行動力が今もっとも必要とされている

そんな姿勢をご評価いただいたためか、今では各方面より「IT活用で成功する秘訣は何ですか?」といったお問い合わせをいただくことが増えました。その問いに対し、私は「発想力と行動力。そして諦めないこと」と答えさせていただいています。
先ほどもお話しした通り、「IT活用の時代だから」「VRやAIという言葉をよく聞くから」という理由でITを導入するのではありません。自分がやりたいことのために、いまどのような技術が開発されているのか?今すぐに活用できるか?という発想を持ち続けることこそが大切だと言えます。
ITに関する知識が豊富で、何かしらの技術やスキルに長けた人は多くいますが、「それらをつなぎ合わせるとこんなことができる」というイマジネーションを持ち、それを実際に実行できる人は少ないのではないでしょうか。今の建設業界に必要とされているのはそういった人材なのだと私は考えています。

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この記事はBuilders Tech編集部により作成されました。