ITとマスカスタマイゼ―ションで
建築業界は全業界をリードする存在へと生まれ変わる

ITとマスカスタマイゼ―ションで
建築業界は全業界をリードする存在へと生まれ変わる

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by builders_user

株式会社日建設計
常務執行役員設計部門 設計代表
山梨知彦 氏

<プロフィール>
横浜市出身。1986年に、東京大学修士課程を経て、日建設計に入社。専門は建築意匠設計。2014年に「NBF大崎ビル」にて日本建築学会賞を受賞。その他多数の賞に輝いている。日本建築家協会会員、日本建築学会会員。現在大学や大学院にて、建築設計指導を行っている。

2009年に発表した著書『業界が一変するBIM建設革命』(日本実業出版)でいち早く建設・建築業界にICTの活用を訴えてきた山梨知彦氏。山梨氏が予測するそう遠くない未来の建築の姿を、最先端の業界事情を踏まえてお話しいただきました。山梨氏の発想の根底を知るために、建築に触れながら挫折を繰り返してきた幼少時代のエピソードから伺いました。

建築を志したきっかけと
挫折ばかりの人生

私が生まれた1960年はまさに高度経済成長期。日本がとても活気にあふれていた頃でした。私の親戚が工務店で住宅をつくっており、自宅の目の前も木材置き場だったため、毎日建材を見て暮らしていました。住宅の建設が、職人の完全な手づくりからプレハブ工法に変わり徐々に工業化されていく、そんな様子を目の当たりにして幼少期を過ごしました。
そして1970年、10歳の時には大阪万博が開催されます。大阪万博の本質は、今思えば建築の祭典でした。丹下健三さんがお祭り広場をつくったり….。この当時の子供向けの代表的な雑誌に『科学と学習』(学研)があります。なんとそこでは建築家が普通に取り上げられていたんです。今では考えられないことですが、私の時代には誰もが小学生の頃から日本を代表する建築家を知ることができました。当時の日本の建築家は子どもたちの憧れの対象だったということです。私が「建築」を意識しはじめたのはこのような背景からでした。
その後、まったく方向性が違いますが、中学・高校とプロミュージシャンを目指すも自身の力量不足を実感して挫折。そして、東京藝大に入学するも、またも自身より絵がうますぎる人たちに出会って再挫折。私が挫折好きなのはこの頃からのようです(笑)。そんな学生時代の最中、とあるきっかけで都市計画に興味を持ち、大学院に進みました。そこで出会ったのが、当時「学者棟梁」と呼ばれていた田中文男さん。図らずも伝統的な仕口や継手の技法など、貴重な知識を学ぶ機会を得ることができました。都市計画を学びにいった大学院で、偶然にも伝統的な木造建築に関わることができたのです。この経験によって都市計画ではなく、やはり「建築」の道に進もうと思うようになりました。

流れてくる流木を見極め、手を伸ばす

かたくなに何かを信じて一本道を進むのは、私のポリシーではありません。幼少期から大学、そして就職までの流れを見ても、常に目指すものを変えていきました。建築や都市計画は、理想だけを通そうとしても、絶対にうまくいきません。たとえば、ここにまっすぐな道を通したいけど、神社があるから道を曲げないといけないなど。でも、それがかえって面白い都市の表情を形成することもあります。理想と実際の状況にうまく折り合いをつけながら、ベストな選択を探るのが建築の面白味なのです。それはまさに私の人生そのものでもありますね。徹底した現状肯定主義です。
建築家を目指して邁進してきたわけではありません。ちょっと背伸びして届く範囲を渡り歩いてきて、今の自分があります。若いスタッフにもよく話すのですが、「川に流され溺れている時は流木を掴む」。その流木探しを繰り返して岸まで辿り着くのだと。「いきなり岸を目指して泳ぎ出すと途中でおぼれてしまうよ」と。いきなり泳ぎ出して岸まで行けるのは、ほんの一部の天才だけです。私のような凡人は、せいぜい流木につかまりながら、次の流木につかまれるように、もう片方の手を伸ばすこと。でも、これってとても大切なことだと思うのです。

一方で、だだ手元にある流木にしがみついているだけだと対岸には辿り着かないし、停滞してしまうことも多い。これまでの日本の建築・建設業界は、まさに同じ流木に両手でしがみついている状態でした。そのため、効率が上がらず厳しい状況になってしまっています。人手不足や業務の非効率化によるオーバーワークになってしまっている現状がまさに対岸に辿り着かず停滞している状態なのです。

建築業界全体の
ICT化が難しかった理由とは

現在、建設・建築業界ではICT(Information and Communication Technology/情報伝達技術)の活用を推し進めようと取り組んでいます。
今からちょうど10年前の2009年、BIM元年と称してICT活用に関する本を書きました。当時は、ICTのヒントが詰まった良質な流木が流れていましたが、10年が経過した現在では、中身のない流木も増えてしまっている気がします。流木を求める人の数が増えれば、残念ながら偽物を流す人もまた出てきます。まさに玉石混合、慎重に本物だけをつかまなければ、滝つぼに落ちてしまいます。
では、なぜ日本の建設・建築業界はICTの流木をつかめないまま、その活用が遅れてしまっているのでしょう?まずは、周知の通り、複雑な業界の構造にあると思います。たとえば、是公の分野では、下請け、孫請けに渡って多種多様な業種が絡んでいるため、大手ゼネコンがデジタル化しようと言ったところで、全体に普及させることが難しい。また、ICT側の問題として、現状のICTは製造業向けの仕組みが多いため建設・建築現場ではその仕組みを効果的に使いきれない。そういった多くの事情から、次の流木に手を伸ばすのをやめて停滞してしまったという背景があります。さらには、製造業と同様に「効率的な大量生産」の概念が普及してしまったことも大きな要因のひとつだったと考えます。
建築家ル・コルビジェがフォードのT型生産ラインを見て感動し、「建築も工場で大量生産して効率的につくるべきだ」と言ってモダニズムの建築が始まりました。20世紀の建築家は、その大量生産の美学に驚かされ、大きく影響を受けたわけです。その結果、世界中の大都会には、一見似たようなビルがたくさん並ぶ状況になっています。大量生産の美学の影響と言えるでしょう。日本国内を例にとると、丸の内のモダンなビル群がそうなります。
しかし、ここにある種の矛盾が生じています。一見すると同じようなビルに見えますが、よく見て見ると、一つとして同じビルはありません。つまり、大量生産の美学を尊重しながらも、実は建築には今も昔も一品生産が求められているわけです。見方によっては、日本の建設・建築業界はこういった点でも間違った流木を掴んでしまったと考えられるかもしれません。

「インダストリー4.0」
大量生産社会は次の時代へ

そして、いま何が起こり始めているかというと、「インダストリー4.0」という動きがドイツ発でスタートしました。インダストリー1.0は、蒸気機関を使った産業革命。大量生産の幕開けです。日本でいうと、トヨタの源流である自動織機が始まった時代です。2.0ではその生産動力が電気に切り替わりました。そして3.0ではコンピューターの活用により、すべてを一元管理できるシステムを構築できるようになります。
これらインダストリー1.0~3.0の流れの中では、いかに効率よく大量生産を行うことができるか?という変遷です。しかし、この流れはあくまで製造業向けで、建築・建設業向きではなかったことは上述のとおりです。
たとえば、製造業にならって推し進めたインダストリー3.0。建設・建築業界内では工業化・効率化されたと言われているプレハブ住宅でさえ、一つの家が建つために必要なパーツ数は2万~4万点あります。そして、メーカーには100万点のパーツが常備されているそうです。これっておかしいと思いませんか?この時点で大量生産の手法とは異なります。建築・建設業界においてお客様の要望に応え、自由なデザインやフォルムで建設を行うためには、これら膨大なパーツ数が必要だったのです。

マスカスタマイゼ―ションを
建築の世界にも取り入れる

こうした変遷に対して、現代の最先端インダストリー4.0は、大量生産のマスプロダクションではなく、個人個人に必要なもの現代の技術で効率よく作り上げるという「マスカスタマイゼーション」を実現する世界観を打ち出しました。
身近な例でいうと、大量生産のTシャツは様々なデザインがありますが、サイズはS・M・Lのおおむね3種類ほど。購入する時は、この中から選ぶわけです。しかし、これをマスカスタマイゼーションにあてはめると、デザインや色を選ぶだけでなく個人の体形に合わせたTシャツを15分くらいでつくってしまうことになります。
昨今話題のZOZOSUIT(ゾゾスーツ)やNikeLabのカスタマイズシューズが具体例でしょうか。また、アップルのiPhoneもこの考えを取り入れて大きく成長した商品だと思います。アプリをダウンロードすることで、自分にジャストフィットするスマホへとマスマスカスタマイゼーションして使用しています。同じiPhoneでも、他人のものは使いづらいですよね?こうした動きは、3Dプリンターなどの技術革新により、一層拍車がかかっています。
この同じパーツをつくりながら、ある程度の個体差を生む「マスカスタマイゼーション」は、建設・建築向きだと思いませんか?さきほどの「流木論」でいえば、「マスカスタマイゼーション」という流木は、これまでの歴史に無いほど建設・建築業界に向いていると思います。

日本が世界をリードするために
IoTを活用し建築そのものをデバイス化する

この考えをベースに新しい生産体制を取り入れることができれば、世界に先駆けて日本の建設・建築業界は飛躍的に化けるはずです。非効率や非生産的から完全に脱却することができるのです。もし実現できれば、世界中のすべての産業が建設・建築を見本にする時代の到来も夢ではありません。
現在はドイツが先行し、中国を始め世界中が躍起になってインダストリー4.0を掴みにかかっている。日本は、主観的には10番手くらいにつけている感じですが、決して悪くはない順位です。ここから日本がトップレベルに躍り出るために必要なキーワードがIoT(※)です。IoTとは「Internet of Things」の略で、「モノのインターネット」という意味で使われています。
モノがインターネットと接続されることによって、これまで取り出すことが不可能であった建築内部で起こっている様々な状況をデータとして取り出し、コンピューター上で、処理、分析、連携することが可能になり、これまでに無かった、より高い価値やサービス生み出すことが期待されている取り組みです。これを上手く使いこなしている国はまだありません。
我々は人生の大半は屋内で過ごします。建物は非常にプライベートな空間で、完成してしまうとブラックボックスになります。だからこそ、IoTを活用することで建築自体をデバイス化し、情報を開き共有していくような発想がこれからの時代に求められると思います。将来の建築は、ビルや個人宅を問わず、そういう発想が大切になるでしょう。
これからの建設・建築で大切なのは、個人の需要を満たし効率を飛躍的に高める「マスカスタミゼーション」。そのための情報を連携・分析するための「IOT」の活用について、業界をあげてもっと真剣に考えるべきだと考えます。
そして、IoTにより得た膨大なデータ処理の知能労働をAIにサポートしてもらう。これが新しい日本の建設・建築業界の目指す形であり、世界のモノづくりをリードしていくために必要なことになるのではと思います。

そう遠くない未来、
建築における人の役割は変わっていく

2009年に著した『業界が一変するBIM建設革命』(日本実業出版)で、その将来性について触れている「BIM」は、現在のところ、設計図を書く時のお助けツールになってしまっています。BIMとはBuilding Information Modeling(ビルディング インフォメーション モデリング)の略で、コンピューター上に作成した建物のデジタルモデルに、コストや仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースを、建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で情報活用を行うためのICTツールです。
例えば、コンピューターの中のバーチャルな空間の中に、デジタル3Dモデルを組み上げると、そこから平面図や断面図や立面図が自動的に生成されるのです。そればかりか、コストや構造上の強度などの「建築情報」も同時にインプットできるため、上手に使えば、設計とリアルタイムにコスト計算が出来たり、構造計算が出来たりもします。昔は、経験や勘で概算コストを推測し、ある程度設計が固まった時点で概算工事費を算出したため、後から正しかった、正しくなかった」と一喜一憂していたものが、BIMを使えば、三次元の形状データに紐づけされた「建築情報」を使って、様々な情報の集計をリアルタイムで行えるお助けツールなわけです。あえて「お助けツール」と言ったのは、現状BIMはまだ本来の能力を100%出し切れていません。しかし、「マスカスタマイゼーション」の考えとつながることで、BIMは飛躍的に利便性が向上するでしょう。さらにBIMがAIと結びつく時代になれば、人間がアルゴリズムとプログラムを考えれば建築の設計が大方できてしまう時代が到来するかもしれません。
例えば、まず、私が建設に当たっての問題解決の手法・ルール・優先順位(要望)を考え、それをエンジニアがプログラムにする。その後、AIがそのプログラム解析してBIM設計データを作成し、そのデータをもとに3Dプリンターが実際に建物をつくる。こうしたことが可能となる時代が、夢物語ではなくなってきています。実際、3Dプリンター技術はデータ通りに金属部材をつくれる段階にまで達しています。

AIの登場と発展により建築設計という職業が無くなるとも言われていますが、僕はそんなことは無いと思っています。ただ「一本の線に魂を込めて図面を描く、フォルムを考える」といったような設計方法ではなくなり、建築家はアルゴリズムやプログラムの作成を通して建築を設計する時代になるかもしれません。
また、意外なことかもしれませんが、こうした技術が確立するにつれて、逆に職人の存在がさらに重要になって来るかもしれません。AIやコンピューター制御のロボットを使えばだれでも同じ精度でモノがつくれそうに思いますが、職人技は必要です。実は、コンピュータープログラミングにも、デジタル工作機を使うにも、そしてデジタル情報をアナログのものに変換する上においても、職人技は存在しますし、重要な役割を果たしています。
加えて、デジタル技術を極限で使ってマスカスタマイゼーションが行われる一方で、そのカウンターアクションとしての工芸的な手作りは、量は減るものの、今以上に大切にされ、存続していく可能性もあります。便利なだけでは、世の中は成り立たないと思うのです。
自動車でいえば、一方で完全自動運転化が進むと、その一方で、それとは逆行するバイクが流行るかもしれません。バイクが面白いのは、人間と共存しなければ立っていられないという点です。バイクは、AIとは違った意味で、人間に深く依存した乗り物なのです。手づくりの建築も、将来は「バイクみたいに(人と共存する)建築」と言われる時代が来るかもしれません。

ICTへのリテラシーを高めること
まずは、身近なコミュニケーションから

急にミクロな話になりますが(笑)、仕事柄、私はPCの前で座っていることが多いので、社内外のコミュニケーションツールはPC8割、スマホ2割といったところでしょうか。
メールの他でよく使うのは、フェイスブックやメッセンジャー、LINEなどのチャットツールです。履歴を残したり、機密性の高い情報のやり取りはメールを使いますが、スピードを重視した社外の方、海外の方とのコミュニケーション等にはSNSの方が便利な場合もあります。
よく、コンプライアンスの問題で会社のルールとして、業務外においてもSNSの利用やチャットの使用を制限したり、NGとしたりしている話を聞きますが、私はこの考え方には反対です。情報漏洩の可能性を心配されることは理解できますが、その一方でSNSのメリットを見落としているように感じるからです。
現代は、こうしたICTツールを各個人が使う場面や使い方等を判断してツールを使い分けるリテラシーを持たなければならない時代です。情報漏洩が怖いから、即時性のあるチャットを使わないとなってしまうと、業務効率を下げたり、知的ネットワークを築く機会を逸したいといったことにつながります。
それに、デジタルネイティブの今の若者は、私たち世代の人間よりもはるかに高いリテラシーを持っていると思います。本当に重要なことはきちんとフェイスtoフェイスか社内メールを使用していますし、あえて外へ出して炎上させて、宣伝に使っても構わない情報を見分け、おもしろいことを仕掛けるぐらいのリテラシーを持っています。逆に、問題なのはSNS時代のスピード感を持っていない人たちです。本当にフェイスtoフェイスの打ち合わせが必要だったのか? など、手間が多いだけで不適切なコミュニケーション手段をとることで、ビジネスの機会を喪失してしまうことの方が問題だと思います。
リテラシーが低いことで必要以上に怖がって何も生みだせないでは本末転倒です。ただ、情報の管理には正解がない。だから、恐れずスタッフみんなでバランスを考えていく。そんな考え方がこれからの時代に必要なものとなるのではないでしょうか。

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この記事はBuilders Tech編集部により作成されました。